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本紙インタビューに応じた一青窈（カメラ・関口　俊明）

　歌手の一青窈（４６）が、デビュー２０周年を記念したオリジナルアルバム「一青尽図（ひととづくしず）」を１８日に発売する。２００４年に発売した代表曲「ハナミズキ」は米同時多発テロから着想を得て作詞したことで知られるが、日頃からニュースから感じ取る「悲しみや怒りを歌詞に込めている」という。歌手として３児の母として、独特の世界観を貫いている。（増田　寛）【画像】オリジナルアルバム「一青尽図」のジャケット　飾り気のない受け答えに圧倒された。デビュー２０周年を記念した約８年ぶりのアルバム。一青は「今までの２０年？　短いです」と即答した。「あまり深く考えてない。なんか周年って、すごく苦手で。物心ついた時から、ずっと今のことしか考えてないです。来る球を打ち続け、今をずっと生きてる感覚です」　１１曲入りの今作では、松任谷由実、Ｃｈａｒａ、森山直太朗ら名だたるアーティストが楽曲を提供。歌詞は全て一青が書いた。「今しか書けない曲がそろっています。ユーミンさんの『かたつむり』や、『耳をすます』は日々の悲しいニュースを見て泣きながら書きました。私の日記みたいなものです。その日に思ってることを書くってことです」。今にかける思いが強いからこそ、詞に思いが自然と乗る。　「ハナミズキ」も泣きながら歌詞を書いた一曲だ。２００１年の米同時多発テロの映像を見て、悲しみに駆られ、スケッチブック３枚に歌詞を書き殴った。「正直、あまり覚えてなくて。曲をもらってからの作業だったので算数の問題を解いてるのに近い感覚でした」。カラオケの定番となり、音楽の教科書に合唱曲として掲載されるほど、国民に浸透する大ヒットとなったが、「そもそも、この曲がヒットするなんて思っていなかった」と明かす。「私の見立てはいつも当たらなくて。誰が喜ぶのかなって思いながら、とりあえず書いてみるって感じでしたから。本当に私の感覚はあてにならない。売れたことに対して何の感情も移入してないです」　小学校に入学した頃から文章を書くことが好きだった。「国語の授業とかで書かされた作文が大好きでした。山のように書けてたなぁ。雲があるな、なんで浮いているのだろうと考えていくと、言葉が湧き出てきた」。小説や短歌、俳句の道を目指そうともしたが、「やっぱり自由な長さの詞が一番良かった」と振り返る。　当時のアイデアは今も血肉となっている。卒業文集はもちろん、小学生時代のノート、友達と授業中に回した手紙まで現在も保存している。「今は恋愛の曲を書くときに見返したりしてるけど、当時は歌手の糧にしようとも思ってなかった。消しゴムを集める感覚で手紙を残してます」。今もティッシュペーパーや子供の絵本の帯、ペットボトルなど書けるものがあれば、どこにでもメモし、ノートにスクラップ。１０年前から本格的に保存し始め、５０冊たまった。　歌手に本格的になろうと思ったきっかけは、高校時代にがんで亡くなった母の影響だった。「（松田）聖子ちゃんを見て憧れてというのもあったけど、やっぱり病室の母が歌で元気になったっていうのが一番。やっぱり音楽っていいなあ、ママが元気になるんだったら、私も誰かを病室で励ましたいなあ、みたいな感じ」　１５年４月にギタリスト・山口周平（４４）と結婚し、３人の子どもの母でもある。　「自分が母になっても、歌詞や歌手の活動は変わらない。子どもは自分の音楽には影響してないかな。私生活では、ご飯を作るようになった。独身時代はカップラーメンと（チューハイの）『氷結』で生きてたんで。革命的です」　歌手活動では「悲しみや怒りといった“負のエネルギー”に対して共感して詞を書いてることが多い」と語るが、子育ては“正のエネルギー”という。　「日々子育ての葛藤は大きい。それでいっぱいいっぱいって感じ。でも大変な方が楽しいです。子どもは本当に面白い生き物。その面白さに日々救われてます」　あえて子どものことは歌にしないという。「子どもの歌とか作ったら、（小島よしおの持ちギャグ）『オッパッピー！』みたいになりますよ。いろいろ思うところがあっても最終的に『そんなの関係ねぇ！』みたいになってしまうと思う」　小学生の時にがんで亡くなった父と母が残してくれていたアルバム作りが心に残っており、一青も３人の子どもの思い出ノートを現在進行形で作成している。学校のテスト用紙も大切に保存。スマホで撮った写真も５日に一度は選定してプリントアウト。自分で切り抜いてデコレーションしている。　「自分が死んだ後に残った人がどう喜ぶかみたいなことの方が重要です。母ちゃん、がんばってたぞ！みたいな。やっぱり両親を亡くしたことが大きいかな。私も両親にやってもらってうれしかった。手が込んでると言われるけど、趣味でやっているので、苦だとは思ったことがないですね」　２５周年、３０周年と今後も活動は続く。ただ、「目標とかはないなぁ」と、どこ吹く風だ。アーティストとして歌い続けるモチベーションはどこにあるのか―。「え？　世界平和を願うことですよ」。即答の中身が壮大だ。　「戦争がなくなったら多分、私は歌わないんじゃないかな。訴えることがないし。周りの悲しみとか怒りとかみたいなのがなくなったら、そんなに歌わなくても…」　若くして両親を亡くしたからこそ、生きることの大変さや大切さを肌で感じてきた。「失って怖いものが命以外にない。何が起きても怖くない。その場で死んで後悔するぐらいだったら全部やってみる」。自らの命をなげうっても後悔がないと言い切れるのが「平和であること」だという。　「私が死んで、この世の中から戦争がなくなるなら別に死んでもいい。子どもには申し訳ないけど、あとはよろしくねって。怒りがなくなったらみんな幸せじゃないですか。何で戦争するのか、各国の偉い人に聞いてみたいし話してみたい。でも、話すすべがないから歌います」。着飾らない言葉には、本当の平和への思いがこもっていた。　◆一青　窈（ひとと・よう）１９７６年９月２０日、東京都出身。４６歳。父は台湾人、母は日本人。台北で幼稚園を卒業し、以後、日本で生活する。慶大環境情報学部在学時にはアカペラサークルで活動。２００２年に「もらい泣き」でデビュー。１５年４月にギタリスト・山口周平と結婚し、同１１月に長男、１７年に長女、１９年に次女を出産。