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　新潟県長岡市の山あい、栃尾地域で生まれたキツネ顔の特撮ヒーロー「炎の天狐（てんこ）トチオンガーセブン」が、活躍の場を広げている。テレビと映画の3作品を世に送り出し、新作映画の公開に向けた準備も進む。生みの親で主演を務めるのは、油揚げ店「毘沙門堂本舗」の店主、星知弘さん（52）。その素顔に迫った。【内藤陽】

　「トチオンガースパーク、ファイア！」。毘沙門堂本舗の主人、星狐太郎（役名）が両肩に「栃尾の油揚げ」を乗せながら叫ぶと、バックルの天狐が光り、トチオンガーセブンが現れる。「愛と正義の命じるままに……」。両手でキツネの形を作り、みえを切る。

　物語の設定はこうだ。蛇王（じゃおう）一族の首領ゲドロンは、栃尾地域に封印されていた邪悪なヤマタノオロチを復活させ、人間の恨みや妬み、そねみなど負のエネルギーから生まれる魔獣人を操り、暗黒世界の創造をたくらむ。この野望に立ち向かう宿命を背負ったのが栃尾人、星狐太郎。神のキツネと融合したトチオンガーセブンに変身し、獣と人間のはざまで苦悩しながら「友達愛・家族愛・郷土愛」を守るため命を懸けて戦う。

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　ただ、劇中のトチオンガーセブンはけっして強くはない。時として敵に敗れ、涙も流す。助けた人間に「キツネの化け物」呼ばわりされ、怖がられる。リストラされて公園で時間を潰す父親が悲劇に巻き込まれたり、ペットを捨てる人間の身勝手さが批判されたりするシーンもある。

　特撮ヒーローものといえば、とかく「勧善懲悪の子どもだまし」と誤解されがちだが、星さんは1970年代の作品を列挙し、異を唱える。「孤高のヒーローは傷つき、苦悩し、それでも他者のために行動する。愛とか正義とか恥ずかしくて普段口に出して言えないようなことを、尊い行為を通して子どもたちにメッセージとして伝えるのです」

　とりわけ影響を受けたのが、3歳の頃にテレビ放映していた「鉄人タイガーセブン」だという。数あるヒーローものの中でも屈指のシリアスドラマで、最も報われないヒーローとして知られる「とんがった作品」だ。変身後、主人公の姿が消えて仲間の不信を買ったり、子どもが主人公のバイクにひかれたりする。そして余命幾ばくもない主人公が一礼し、仲間の元を走り去る結末。「暗い」と敬遠する子どももいたが、星さんは「子ども心にヒーローの苦悩を感じた」と振り返る。

　旧栃尾市出身で1970年生まれの星さんは、幼い頃から大の特撮ヒーロー好きだった。新潟産業大付属高校を卒業後、20歳で就職。東京の広告代理店で働きつつ「いつか特撮ドラマを制作する側になりたい」と夢を抱いていた。当時はバブル経済に沸く好景気だったが夢かなわず、23歳の春、家業の油揚げ店を継いだ。結婚し、3子をもうけた。

　諦めかけた夢の歯車が再び動き出したのは、31歳の時。子どもたちと一緒にDVDで鉄人タイガーセブンを見返したことだ。「鮮烈だった。平成ヒーローに物足りなさを感じ、（70年代特撮ヒーローの後継者となる）使命感を覚えた」

　ケモノ顔で格好良くなり過ぎないB級感▽地元に根ざした何気ない日常との地続き感▽挫折してもはい上がって立ち向かう生き様▽分かりやすく社会的なメッセージ――など、本業の傍ら構想を巡らし、キツネのモチーフにたどり着く。この時すでに46歳。ただ、情熱は尽きなかった。

　作品の原作とテーマ曲の作詞・作曲、歌、造形から営業まで一人でこなし、劇中では変身前も後も自ら演じる。一方、現実世界では制作費などを巡り「芸能界にはびこる魑魅魍魎（ちみもうりょう）」と戦ってきたという。

　週末には各地のイベントでヒーローショーを開催し、県警のキャンペーンや税務署の租税教室にも協力。テレビのバラエティー番組出演、小学校での講演もこなす。「子どもは未来そのもの。笑顔に苦労が報われます」と相好を崩す。今や、子どもと50歳以上の中高年を中心に知名度はうなぎ登りだ。

　トチオンガーセブン作品は全体として、特撮ヒーローもので主演を務めた俳優が多数出演するなど、往年のヒーローたちへのオマージュがあふれる。「今の時代、なかなか夢見ることが許されない厳しい現実がある。おやじたちがもっと夢を語り、歯を食いしばる姿を見せないといけないのではないでしょうか」。これからも行く手に待ち受ける苦難を「鋼の特撮愛」で乗り越えていく。

昔ながらの油揚げ作りも

　「炎の天狐トチオンガーセブン」作品にも登場し、星知弘さんが営む「毘沙門堂本舗」（長岡市北荷頃1121の5）は、昔ながらの栃尾の油揚げを作り、販売している。

　星さんによると、作り方は我流が基本。理想の油揚げを作るため他店を見学して回るなど、試行錯誤を重ね編み出した職人技だ。

　油揚げは縦22センチ、横7センチ、厚さ3センチで、1枚の重さは200グラム以上。原料となる大豆本来のうまみが凝縮されている。薄皮はずっしりしっとりとした食感で、中に豆腐が詰まっていて濃厚な豆汁が口いっぱいに広がり、「食卓の脇役ではなく主役級」の存在感だ。

　価格は1枚220円（税込み）。営業時間は午前10時～午後6時、水曜定休。問い合わせは（0258・53・2825）へ。