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　まもなく受験シーズンを迎えます。落ちこぼれだった生徒たちが東大合格を目指す人気漫画「ドラゴン桜」には、ビートルズの曲を歌ったり、基本例文の組み合わせで難しい英作文に挑んだりといったユニークな指導をする英語教師が登場します。モデルとなったのが、予備校や塾の講師としてカリスマ的な人気を誇る竹岡広信さん（61）です。中学時代に嫌いになってしまったという英語をどう学び、どのように教えてきたのか。人生八方ふさがりの中で出会った、英語力が伸びる極意とは。英語をめぐる泣き笑いの中には、「ドラゴン」にまつわる家族の物語もありました。

　――英語との出会いは、どのようなものだったのですか。

　「父親が京都府亀岡市の自宅の2階で塾を開き、英語と数学を教えていました。父は第2次世界大戦中に、旧制中学から海軍機関学校に進み、最上級生のときに終戦を迎えたそうです。当時の海軍は英語の学習に厳しく、学校の寮に入ったら、ホーンビー（英国の英語学者で辞書の編集者）の英英辞典が置いてあった、と言っていました」

　「戦争が終わって、大学に編入するよう家族からは勧められたようですが、父はそれまでずっと『お国のために死のう』と思っていたのに、急にそんな気持ちにはなれなかったようです。一時は復員船の乗組員になって、その後、公立中学の教師を経て、塾で地元の子どもたちを教えるようになりました」

　「僕も中学1年から、父の塾で英語を習いました。でも、英単語が全然覚えられなくて、塾の試験のときに、単語のスペリングをカンニングしたことがあったんです。それがばれて、父はとてもやさしい人だったのですが、この時ばかりはこっぴどく怒られて、泣きながら覚えました」

　――中学の英語の授業はどうでしたか。

　「20代の若い女性の先生が教えてくれたんですが、発音がうまくて『your』が『ヨー』に聞こえました。でも、父親はバリバリ日本語の英語だから、ふだん『ユア』と発音していたんです。それで、僕は先生のところに『どっちが正しいんですか』と聞きにいきました。でも、先生は『どちらでもいいのよ』と。英語はいい加減な言語やなあ、とがっかりしました。それから、楽器名には『the』が付くとか、三人称単数には『s』が付くとか。その法則性はどこから出てくるんだ、と疑問だらけ。教科書は『This　is　a　pen』から始まるんですが、『th』がなんでこんな発音になるんやろ、みたいに悩んでしまって、単語が覚えられなくなりました。英語も嫌いになっていきました」

ビートルズは不良だから発音が悪い？

　「中1の真ん中ぐらいのときに、ビートルズと出会いました。確かテレビから流れてきた『ヘイ・ジュード』をたまたま聞いて好きになり、レコードを買いに行きました。それで歌詞を見ながら歌おうとするんですが、全然歌えないんです。習った発音と全く違うから、歌うと字余りになる。それで、ビートルズは、こいつらきっと不良で発音が悪いんだ、なんて勝手に思っていました」

　――高校生になると、英語への向き合い方はどうなったのでしょうか。

　「京都市の洛南高校に入りました。英語の先生はとても怖かったんですが、今で言うアクティブラーニングの走りのような授業でした。毎回、教科書の英文を聞かせて、それについて英語で質問し、生徒に英語で答えさせるんです。教科書の英文を全部覚えていかないといけなくて、毎回、授業の最初の20分ぐらいは、恐怖の時間でした」

　「その授業のおかげで、勉強はできたんですが、やっぱり英語は好きにはなれませんでした。でも、大学入試のために単語を覚えなければなりません。当時、片道50分の通学に、国鉄山陰線の電車を使っていました。どうせ座席は空いてないので、自分でパイプイスを持ち込んで車両の連結部分に座ってトレーニングペーパーに書き込み、10日間で1千単語を覚えたことがあります。でも、その後、友達に試験してもらったら、ほとんど忘れていました」

　「数学は好きだったんです。神秘を解くような、例えば補助線1本で解決する瞬間の喜びのようなもの、一つの公式に収束していくところが本当に好きだったんです。でも、英語は逆に拡散していくんです。例えば、『pick　up』という言葉を見たら、意味が17もあると書いてある。『be　to』にも六つも用法があるという。なに言っているんだろうという感じで、許せなかったんです」

　――大学は京都大学工学部に入学されたのですね。

　「数学と理科が好きだったから理系にしました。シュルンベルジェのような、世界を股にかける外資系資源開発会社で働きたくて、資源工学科に進みました」

　「大学1年のときから、父親の塾でアルバイトを始めました。父は中学生には英語と数学、高校生には数学だけを教えていました。だから、高校1年生の英語を見たらへんか、ということになったんです。英語は嫌いだから無理だって言ったんですけどね。でも、人間は不思議なもので、大学に受かると偉くなった気がしてしまうんですね。それで始めて、問題集をみんなでやったり、例文を覚えさせたりしましたけど、一体どうしたらいいかわからないんです。教え方を研究するために、月に10万円分も参考書を買い、生徒たちには3千～4千もの単語を丸暗記させ、1千構文を覚えさせました。生徒もがんばってついてきてくれました」

　「僕も研究するのは好きなので、当時は1時間の授業のために10時間もかけて予習していました。ところが、そんなふうにして教えた1期生十数人全員が、志望校に合格できなかったんです」

　「でも、どんなにつらくても、下の学年の生徒たちがすぐに上がってくるから、ほったらかしにできない。大学で工学部を卒業した後に文学部に編入学し、塾で教え続けることにしました」

おっちゃん、全国模試トップ取れるで

　――英語に本格的に取り組むことになったんですね。

　「文学部では、アメリカ文学…